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大阪地方裁判所 昭和55年(ワ)7458号 判決

原告

小松頼正

ほか一名

被告

山中稔

ほか一名

主文

1  被告らは、各自、原告小松食品株式会社に対し、二九七万〇三三三円およびこれに対する昭和五三年一〇月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告小松食品株式会社のその余の請求を棄却する。

3  原告小松頼正の請求を棄却する。

4  訴訟費用中、原告小松頼正と被告らとの間に生じたものは、同原告の負担とし、原告小松食品株式会社と被告らとの間に生じたものは、これを三分し、その一を同原告会社の、その余を被告らの負担とする。

5  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者双方の求めた裁判

一  原告ら

1  被告らは、各自、原告小松頼正に対し、二八一万八七四三円、原告小松食品株式会社に対し、四七八万三三三三円、およびこれらに対する昭和五三年三月二一日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言

二  被告ら

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二請求の原因

一  事故の発生

原告小松頼正(以下単に「原告頼正」という。)は左記交通事故により後記傷害を受けた。

1  発生日時 昭和五三年三月三一日午前零時二五分頃

2  発生場所 兵庫県赤穂市有年字三〇一番地(国道二号線上)

3  加害車 大型貨物自動車(岡一一か四四一五)

4  右運転者 被告山中稔

5  被害車 普通貨物自動車(長野四四せ一一〇五)

6  右運転者 原告頼正

7  事故の態様 原告頼正が前記路上にて被害車を運転中、右折のためセンターライン寄りに停止中後方から進行してきた加害車に追突されたもの。

二  責任原因

1  被告センコー株式会社(以下「被告会社」という。)被告会社は加害車を所有し、これを自己のため運行の用に供していたものであるから、自賠法三条により後記原告らの損害を賠償する責任がある。

2  被告山中

同被告は加害車を運転した際前方不注視により本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条により後記原告らの損害を賠償する責任がある。

三  原告頼正が受けた傷害の内容と入通院状況

1  傷害の内容

原告頼正は本件事故により前額部裂傷、鼻部裂傷、右頬部裂傷、口唇裂傷、鼻骨々折、両下腿打撲、歯牙破折欠損の傷害を受けた。

2  入通院状況

別紙一、二のとおりである。

四  原告頼正の後遺症

1  顔面の醜状痕

原告頼正は、昭和大学病院形成外科で顔面の傷について治療を受けたが、昭和五四年四月一〇日、症状固定の診断を受け、前額部より右口角にかけて約二〇センチの瘢痕を残し、後遺症認定を受けた結果自賠責施行令別表の第一二級一三号に該当すると認定された。

2  頸部捻挫

原告頼正は、当初顔面の傷の痛さ、治療のみに気をとられ、頸部捻挫について、検査、治療を受けなかつたが、しかし右顔面傷害の症状固定時頃より、頭痛頸部痛を感じるようになり、天気の悪い日には寝こむほどである。そして昭和五五年八月には国立長野病院通院のため通院医師の指示により仕事(食料品セールス)を約一ケ月間休んでいる。

右症状は少なくとも自賠責施行令別表第一四級一〇号に該当する。

五  原告頼正の損害

1  治療費、入院費、診断書、明細書料

(一) 柳沢歯科医院

診断書料 一〇〇〇円

(二) 国立長野病院

〈イ〉頸部捻挫治療費(昭和五五年七月一七日~同年一〇月三〇日) 一万七八六〇円

(ロ)診断書料(昭和五六年一月三〇日) 三〇〇〇円

〈ハ〉ホリネツク代 五四五〇円

〈ニ〉顔面再手術費用 三〇万円

(三) 昭和大学病院

〈イ〉頸部捻挫治療費(昭和五五年七月九日) 一万〇二五〇円

〈ロ〉診断書料(昭和五六年二月六日) 二〇〇〇円

(四) 気仙沼長生院

〈イ〉治療代(昭和五五年六月五日) 六〇〇〇円

〈ロ〉治療代(昭和五五年七月一〇日) 三〇〇〇円

2  入院雑費(赤穂市民病院、昭和大学病院六二日入院) 六万二〇〇〇円

3  慰籍料

(一) 入通院分 三〇〇万円

顔面醜状、歯の欠損で入院六二日、実通院一八日であり、頸部捻挫で実通院二八日であり、これら合計で延約二年一一月であり、自宅療養日数相当多い。

(二) 後遺症慰藉料 一五七万円

自賠責施行令別表の第一二級に該当

4  交通費

気仙沼長生院

〈イ〉昭和五五年六月五日 七〇〇円

〈ロ〉昭和五五年七月一〇日 一万〇六五〇円

〈ハ〉昭和五四年一一月二六日 一万一五〇〇円

5  再手術のための休業損害分 一三万五三三三円

五八万円(月収)×七日÷三〇日

6  1ないし5の合計額五一三万八七四三円

7  損害の填補 自賠責保険金として、傷害保険金一〇〇万円、後遺障害保険金として一五七万円の合計二五七万円を受領

8  弁護士費用 二五万円

9  損害額 二八一万八七四三円

六  原告小松食品株式会社(以下「原告会社」という。)の被告らに対する費用償還請求

原告頼正は、原告会社の専務取締役であるが、実質的には同社製品を売りこむセールスマンとして日々奔走していたが、本件事故により前記の如く入通院を余儀なくされ、会社を休まざるを得なかつた。

しかし、原告会社は右原告頼正が欠勤している期間も給与名下に同原告の本来の給与相当額四三八万三三三三円を支払つたた。

五〇万円(月収)×{五五日(入院日数)+五〇日(実通院日数+一五八日(自宅療養日数)}÷三〇日=四三八万三三三三円

しかして、右給与名下の支払金は原告会社が被告らのための事務管理として被告らに代わつて支払つたものであるから、原告会社は民法七〇二条に基づき被告らに対し右四三八万三三三三円の費用償還請求権を有する。

また休業損害立替分も本件事故により原告会社に直接に生じた損害であるから、弁護士費用四〇万円も併せて請求する。

そうすると合計額は四七八万三三三三円となる。

七  結論

以上によれば、被告らは、各自、原告頼正に対し、二八一万八七四三円、原告会社に対し、四七八万三三三三円およびこれらに対する昭和五三年三月二一日から各支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

第三請求原因に対する答弁

一  請求原因一の1ないし7はいずれも認める。

二  請求原因二の1、2は認める。

三  請求原因三の1、2は知らない。

四  請求原因四の1は認める。同四の2は知らない。

五  請求原因五の1ないし4は争う。

同五の5の顔面の再手術については、その時期、内容は不明であり、さらに原告頼正は、顔面の醜状については自賠法施行令別表の後遺障害等級一二級一三号として、逸失利益および慰藉料を含めて自賠責保険金一五七万円を受領しているのであるが、再手術の結果顔面の醜状が除去もしくは軽減されると後遺障害は存在しないか、又はより軽度のものとなる訳であり、従つて身体の醜状痕についてなされた後遺障害の補償と併せて、再手術の費用や、その間の休業損害を認めることは妥当ではない。

同五の七は認める。

同五の八は争う。

第四被告の抗弁(損害相殺)

一  請求原因五の七の自賠責保険金のほか、被告会社から、原告頼正に対する損害の内払いとして原告会社へ送金した金額は次のとおりである。

1  昭和五三年七月一一日 二九万八八四八円

2  同年同月二〇日 五〇万円

3  同年一〇月二〇日 六六万七一七一円

4  昭和五四年五月二五日 四三万〇六六〇円

右合計額 一八九万六六七九円

二  なお、被告会社から、原告頼正の治療費として病院に対し次のとおり直接支払つた

1  赤穂市民病院 三四万五七七五円

2  昭和大学病院 六九万六七五〇円

右合計 一〇四万二五二五円

第五抗弁に対する原告頼正の答弁

一  抗弁一記載の通りの金額を原告会社が受領したことは認めるが、これらは既に被告会社より支払を受けたものとして、本訴において請求していない部分であるから、損益相殺の対象とはなりえない。

すなわち原告会社が受領した合計金一八九万六六七九円のうち金九〇万四九四〇円に原告頼正の治療費として支払い残額九九万一七三九円は次のとおりの支払に充てたものであるが、これらはいずれも本訴請求外である。

交通費 三三万三四五六円

宿泊費 九万〇四五〇円

食費 八万一一二七円

電話代 九万〇二〇〇円

見舞御礼 一七万四七六〇円

雑費 三万九七四四円

本人所持品使用不可買替令 一八万三〇〇〇円

二  なお抗弁二記載の通り、被告会社が病院に直接治療費として合計一〇四万二五二五円支払つたことは認めるが、これも本訴請求外であるから、損益相殺の対象とはなり得ない。

第六証拠〔略〕

理由

第一事故の発生について

請求原因の一の1ないし7は当事者間に争いがない。

第二責任原因

請求原因二の1、2は当事者間に争いがない。

してみると、被告会社は、自賠法三条により、被告山中は民法七〇九条により、それぞれ本件事故により原告らが受けた後記損害を賠償する責任がある。

第三原告頼正が受けた傷害の内容と治療経過

一  原告頼正の受傷内容

成立に争いのない甲第二号証に弁論の全趣旨を併わせると、原告頼正は本件事故により前額部裂傷、鼻部裂傷、右頬部裂傷、口唇裂傷、鼻骨々折、両下腿打撲、歯牙破折欠損の傷害を受けた。

二  原告頼正の治療経過

1  顔面関係

成立に争いのない甲第二号証、同第三号証、同第四号証、同第五号証、同第六号証、原告頼正本人尋問の結果(第一回)に弁論の全趣旨を併わせると、原告頼正は事故当日である昭和五三年三月三一日から同年四月一二日までの一三日間兵庫県赤穂市加里屋中州三丁目五七番地所在赤穂市民病院で入院治療を受け、縫合四〇針の手術を受け、同月一三日東京都品川区旗の台一―五―八昭和大学病院形成外科において同年五月六日まで二四日間入院し、その間顔面瘢痕拘縮形成術、鼻骨々折観血整復術の手術を受け、さらに同年九月九日から同月二一日まで一八日間、同形成外科において一八日間入院し、その間前額部瘢痕拘縮形成術、鼻骨々折観血整復術、鼻中隔彎曲症手術をそれぞれ受けたこと、並びに右に関連して同病院に四日通院したことがそれぞれ認められる。

2  歯の治療

成立に争いのない甲第七号証、同第八号証、同第九号証に弁論の全趣旨を併わせると、原告頼正は本件事故により五歯の歯牙破折、二歯の欠損を生じ、昭和五三年九月二九日から昭和五四年六月二九日までの間一四日間上田市中央北二―六―四所在柳沢歯科医院に通院加療したことが認められる。

3  頸部捻挫

成立に争いのない甲第一四号証、同第一五号証、同第一七号証、同第一八号証、同第一九号証、同第二〇号証、同第二一号証、同第二二号証、同第二六号証、同第二七号証、原告頼正本人尋問の結果(第一回)により真正に作成されたものと認められる甲第一二号証の一ないし三、同第一三号証、証人筒井信之の証言により真正に作成されたものと認められる乙第一号証の三、原告頼正本人尋問の結果(第一回)に弁論の全趣旨を併わせると、原告は頸部痛、後頭部痛、左手シビレ感などを訴え(但しレントゲン写真上は異常なし)て、別紙二記載のとおり昭和五三年五月九日から昭和五六年二月四日までの間に気仙沼市新浜町一丁目八の二八気仙沼長生院や長野県更級郡上山田町大字上山田国立長野病院などに合計二九日通院して、施術や治療を受けたことが認められる。

第四原告頼正の後遺症

一  顔面の醜状痕

原告頼正が、昭和大学病院形成外科で顔面の傷について治療を受けたが、昭和五四年四月一〇日、症状固定の診断を受け、前額部より右口角にかけて約二〇センチの瘢痕を残し、後遺症認定を受けた結果自賠責施行令別表の第一二級の一三号に該当すると認定されたことは当事者間に争いがない。

二  頸部捻挫

原告頼正は頭痛頸部痛を感じ、右症状は少なくとも自賠責施行令別表第一四級一〇号に該当する旨主張し、原告頼正の本人尋問の結果(第一回)にはこれに沿う供述が存するが、上述のとおりレントゲン写真上は異常は認められないことに原告頼正の受傷の部位、さらには別紙二のとおりの頸部捻挫についての通院期間と通院回数および通院間隔を併わせ考えるといまだその主張にかかる後遺障害があるものと認めるに足りないから、この点の同原告の主張は採用できない。

第五原告頼正の損害

一  治療費等

1  柳沢歯科医院 診断書料 一〇〇〇円

前記甲第八号証によつて右が認められる。

2  国立長野病院

(一) 頸部捻挫治療費(昭和五五年七月一七日~同年一〇月三〇日) 一万七八六〇円

前記甲第二七号証により右が認められる。

(二) 診断書料(昭和五六年一月三〇日) 三〇〇〇円

甲第二号証、成立に争いのない同第二八号証によつて右が認められる。

3  昭和大学病院

(一) 頸部捻挫治療費(昭和五五年七月九日) 一万〇二五〇円

前記甲第二一号証、成立に争いのない同第一六号証によつて右が認められる。

(二) 診断書料(昭和五六年二月六日) 二〇〇〇円

成立に争いのない甲第二五号証に弁論の全趣旨を併わせると右が認められる。

4  ポリネツク代 五四五〇円

前記甲第一八号証、同第一九号証、原告頼正本人尋問の結果によれば、同原告は国立長野病院の吉松医師の指示によりポリネツクを右金員で訴外志田第二義肢製作所から購入したことが認められる。

二  将来の顔面再手術費用 三〇万円

成立に争いのない甲第一一号証に原告頼正本人尋問の結果によれば、同原告の鼻にガラス片が入つておりそれを取り除き且つ顔面瘢痕拘縮のため同原告は近い将来昭和大学病院において再手術を受ける予定であるところ、その際には約一週間の入院をし、約三〇万円の費用が必要であることが認められる。

三  入院雑費 六万二〇〇〇円

原告頼正が赤穂市民病院、昭和大学病院に合計五五日間入院したことは前記(第一、二・1)認定のとおりであり、また、同原告の顔面の再手術のため七日間の入院が必要であることは上述のとおりであるところ、右入院期間中一日一〇〇〇円の割合による合計六万二〇〇〇円の入院雑費を要し又は要するであろうことは、経験則上これを認めることができる。

四  慰藉料 二二〇万円

本件事故の態様、原告頼正の傷害の部位、程度、後遺障害の内容、程度、治療の経過その他諸般の事情を考えあわせると同原告の慰藉料額は二二〇万円とするのが相当であると認める。

五  交通費 八〇〇〇円

原告頼正は前記(第一・二・3)のとおり、頸部捻挫施術のため別紙二記載のとおり気仙沼長生院に通院し、そのうち交通費として〈イ〉昭和五五年六月五日 七〇〇円、〈ロ〉昭和五五年七月一〇日 一万〇六五〇円 〈ハ〉昭和五四年一一月二六日 一万一五〇〇円を請求しているところ、前記甲第二号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める甲第二九号証の一、同第三〇号証の一ないし四、同第三一号証によれば、同原告は受傷当時長野県埴科郡戸倉町大字内川一二九〇に居住し、前記〈イ〉は急行料等として、〈ロ〉は東北自動車道の高速料金として、〈ハ〉は一関までの乗車券、特急券等として実際同原告が気仙沼長生院に通院のための交通費として支出したことが認められるが、しかし、上記(第一・二・3)のような治療経過に頸部捻挫の程度(第四・二)を併わせ考えると、何故に同原告は遠距離の気仙沼長生院に通院しなければならなかつたのか理解に苦しむところであり、同原告程度の頸部捻挫の治療をする医療機関は同原告の当時の居住地からさほど交通費を要しないところで容易に発見し得るものと考えられ、現に同原告は国立長野病院に右症状治療の為通院もしていたのであるから、気仙沼長生院通院の為の交通費は一往復につきせいぜい四〇〇〇円が本件事故による損害と認めるのが相当であり、右金額を超える部分については、本件事故と相当因果関係がないものと解するのが相当である。

してみると、この点の交通費としては〈ロ〉、〈ハ〉併せて金八〇〇〇円と認められる。

六  再手術のための逸失利益 一一万六六六六円

原告頼正が顔面の再手術のため七日間の入院を要することは上述のとおりであるところ、原告頼正本人尋問の結果(第一回)によれば、同原告は本件事故当時原告会社の専務取締役としてその営業部門を担当し、一か月五〇万円の収入を得ていたことが認められるので、次の算式により、同原告の再手術のための入院による将来の逸失利益として一一万六六六六円が認められる。

五〇万円×七日÷三〇日=一一万六六六六円

七  右一ないし六の合計額は二七二万六二二六円となる。

八  損益相殺

1  原告頼正が自賠責保険金として、傷害保険金一〇〇万円、後遺障害保険金一五七万円の合計二五七万円を受領したことは当事者間に争いがない。

2  被告会社が、抗弁二記載のとおり、治療費として計一〇四万二五二五円を直接病院に支払つたことは当事者間に争いがないが、成立に争いのない乙第六号証、同第七号証、同第八号証、同第九号証の一、二、同第一〇号証の一ないし三、証人筒井信之の証言によつて真正に成立したものと認められる乙第一号証の二、三に弁論の全趣旨を併わせると、右治療費は被告会社によりすでに支払われたものとして、原告頼正の本訴請求には含まれていないことが認められるから、右支払われた金員は本件においては損益相殺の対象とはなり得ないこととなる。

3  被告会社が抗弁一記載のとおり、原告頼正に対する損害金の内払いとして原告会社へ計一八九万六六七九円を支払つたことは当事者間に争いがない。

しかして、原告頼正は右一八九万六六七九円は抗弁に対する答弁一記載のとおり本訴請求外の同原告の損害に充当したものであるから、右金員は本件において損益相殺の対象とはなり得ない旨主張するので、以下この点について検討する。

(一) 治療費

同原告は、本訴請求外の損害である治療費として九〇万四九四〇円充当した旨主張するところ、前記乙第一号証の二、三に弁論の全趣旨を併わせると、右主張事実が認められるから、右金員は損益相殺の対象には含まれないこととなる。

(二) 交通費

同原告は、本訴請求外の損害である交通費として三三万三四五六円充当した旨主張しているところ、証人筒井信之の証言によつて真正に成立したものと認められる乙第一号証の四ないし七に弁論の全趣旨を併わせると、同原告が交通費として右金員を出捐したことが認められるが、この中には気仙沼長生院への六回の交通費分一一万八六五五円が含まれているところ、前記五で説示した如く、一往復四〇〇〇円すなわち六回分としては二万四〇〇〇円は本件事故による損害と認められるが、その余の九万四六五五円は本件事故とは相当因果関係を有せず、損害とは認め難いので、この金額は損益相殺の対象に含まれることとなる。

(三) 宿泊費

同原告は、本訴請求外の損害である宿泊費として九万〇四五〇円充当した旨主張しているところ、証人筒井の証言により真正に成立したものと認められる乙第一号証の七に弁論の全趣旨を併わせると、同原告が宿泊費として右金員を支出したことが認められるが、その中には気仙沼長生院通院の関係で宿泊したものとして計三万八七五〇円が含まれていることが認められるところ、これは前記五で説示した同一の理由により、本件事故と相当因果関係にある損害とは認め難いので、右三万八七五〇円は損益相殺の対象となる。

(四) 食費

同原告は本訴請求外の損害である食費として八万一一二七円充当した旨主張するが、証人筒井の証言によつて真正に成立したものと認められる乙第一号証の八、九記載の食費は、いずれも本件事故による損害とは認め難いので右八万一一二七円は損益相殺の対象となる。

(五) 電話代

同原告は、本訴請求外の損害である電話代として九万〇二〇〇円充当した旨主張しているところ、証人筒井の証言によつて真正に成立したものと認められる乙第一号証の一〇によれば、同原告が電話代として右金員を支出したことが認められるが、右電話代が本件事故と相当因果関係にある損害と認めるのに足りる証拠はないから右九万〇二〇〇円は損益相殺の対象となる。

(六) 見舞御礼

同原告は見舞御礼として一七万四七六〇円充当した旨主張するところ、証人筒井の証言によつて真正に成立したものと認められる乙第一号証の一一に弁論の全趣旨を併わせると、同原告が謝礼等として右金員を支出したことが認められるが、上述認定のとおりの同原告の傷害の部位、程度および治療経過に乙第一号証の一一記載の支出内容を併わせ考えると、右支出のうち五万円が本件事故と相当因果関係に立つ損害と認めるのが相当であり、その余の一二万四七六〇円は右にいう損害には該当するものとは認め難いので損益相殺の対象になることとなる。

(七) 雑費

同原告は、本訴請求外の損害である雑費として三万九七四四円充当した旨主張しているところ、証人筒井の証言によつて真正に成立したものと認められる乙第一号証の一二によれば、右にいう雑費は同原告の入院中の雑費であることが認められ、そしてこれは前記三においてすでに損害として計上されているところであるから右三万九七四四円は損益相殺の対象となる。

(八) 同原告所持品使用不可買替分

同原告は、本訴請求外の損害である所持品使用不可買替分として、一八万三〇〇〇円充当した旨主張するところ、証人筒井の証言によつて真正に成立したものと認められる乙第一号証の一三に本件事故の態様、同原告の傷害の部位、程度および弁論の全趣旨を併わせると同原告はその主張のように物損を受けたものと推認され、且つ証人筒井の証言に弁論の全趣旨を併わせると被告山中は被告会社の従業員であり、被告会社には自賠法三条による責任のほか民法七一五条の使用者責任もあることが認められるところからすれば、同原告の右充当は相当であり、したがつて右金一八万三〇〇〇円は損益相殺の対象とはならない。

(九) 右(一)ないし(八)によれば、被告会社から原告会社へ支払われた計一八九万六六七九円のうち一四二万七四四三円は本訴請求外の損害に充当され、残余の四六万九二三六円が本件において損益相殺の対象となる。

4  してみると、損害の填補額は1の二五七万円と3の四六万九二三六円の計三〇三万九二三六円となり、同原告の七の損害合計額二七二万六二二六円より三一万三〇一〇円上回ることになる。

九  以上によれば、原告頼正の損害額はすでに同原告に対し支払われた金員でもつて填補されているので、同原告の本訴請求は理由がない。

第六原告会社の費用償還請求

前記第五の六によれば、原告頼正は本件事故当時原告会社の専務取締役としてその営業部門を担当し、一か月五〇万円の収入を得ていたことが認められるところ、原告頼正本人尋問の結果(第一回)によれば、同原告が本件事故により原告会社を休んでいる間にも原告会社は原告頼正へ従来どおりの給与の支払をなしてきたことが認められる。

そこで原告頼正の欠勤日数についてみるに、原告頼正本人尋問の結果(第二回)により真正に成立したものと認められる甲第三二号証によれば、その欠勤日数は入院日数五五日、通院日数五〇日、自宅療養日数一五八日の合計二六三日と記載されているが、入院日数五五日、(上記第三の二)はそのとおりであるが、通院日数は上記第三の二(別紙一、二)により四七日であり、自宅療養日数一五八日も当初原告会社は入院と通院日数のみを基準として費用償還請求をしていたことなどの弁論の全趣旨に照らすときそのまま措信し難く、結局原告頼正の受傷の部位、程度、治療の経過に照らすとき、甲第三二号証の自宅療養の記載については昭和五三年九月末日までの記載日数九五日分が自宅療養し原告会社を欠勤したものと推認するのが相当であり、同年一〇月以降の記載日数については措信し難い。

してみると原告頼正の本件事故により原告会社を欠勤した日数は計一九七日と認められるので、原告会社は次の算式により計三二八万三三三三円を被告らに代つて原告頼正に休業損害として立替払いしたこととなる。

五〇万円×一九七日÷三〇日=三二八万三三三三円

そこで前記第五の八において被告会社において過払となつている三一万三〇一〇円を右三二八万三三三三円より控除すると(損益相殺により)金二九七万〇三二三円となる。

なお、原告会社は右休業損害立替払も本件事故により、原告会社に直接生じた損害であるとして弁護士費用として金四〇万円を請求しているが、右休業損害立替費用はあくまでも原告会社が任意に被告らに代わつて原告頼正にその損害である休業損害を立替払いしたのにすぎないから、原告会社を請求主体とする弁護士費用の請求は認め難いというほかはない。

また原告会社は右休業損害立替費用についての遅延損害金の起算日を本件事故日としているが、これは相当ではなく、右費用を現実に原告頼正に支払を了したものとみなされる昭和五三年九月末日の翌日である同年一〇月一日を遅延損害金の起算日と認めるのが相当である。

第七結論

以上によれば原告頼正の本件請求は理由がないのでこれを棄却することとし、原告会社の請求については二九七万〇三二三円およびこれに対する昭和五三年一〇月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払を求める限度内で理由があるので認容し、訴訟費用の負担については民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 本田恭一)

別紙1

〈省略〉

別紙2

〈省略〉

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